AI倫理は、もはや「技術者だけの問題」ではない──国際学会AIESから読む、AI倫理の最前線

AI倫理は、いま急速に広がっています。

かつてそれは、AIに差別をさせないためのルールや、個人情報を守るためのガイドラインとして語られることが多かったかもしれません。しかし現在、AI倫理が扱う範囲は、労働、教育、医療、司法、行政、芸術、民主主義、環境、そして「人間とは何か」という問いにまで及んでいます。このレターの初回では、AIESを入り口に、AI倫理の最前線がどこにあるのかを見ていきます。
窪田望 2026.06.18
読者限定

AI倫理という言葉を聞いたとき、多くの人は「AIに差別させないためのルール」や「個人情報を守るためのガイドライン」を思い浮かべるかもしれません。

もちろん、それは間違いではありません。

しかし、いま世界のAI倫理研究は、もっと広い場所へ移動しつつあります。
AIは、単なる便利なツールではなく、労働、教育、医療、司法、行政、芸術、民主主義、環境、そして私たちが「人間」をどう定義するかという問題にまで入り込んでいます。

その最前線のひとつが、国際学会 AIES です。

AIESは、正式には AAAI/ACM Conference on AI, Ethics, and Society と呼ばれる国際会議です。AI、倫理、社会の関係を扱う学会であり、コンピュータサイエンスだけでなく、法学、政策、社会科学、哲学、心理学、人文学など、さまざまな分野の研究者が集まります。

AIESが重要なのは、単に「AI倫理」という流行語を掲げているからではありません。AIESは、AAAIとACMの名を冠した査読付き国際会議であり、過去のプロシーディングスはACM Digital LibraryやAAAI Proceedingsに収録されています。AIES 2023/2024のACM Digital Library掲載情報では、投稿162件に対して採択61件、採択率38%とされており、AI倫理・社会領域における一定の選抜性を持つ場でもあります。

さらにAIESは、コンピュータサイエンス、法政策、社会科学、倫理哲学のプログラム共同議長によって運営される横断的な会議であり、FAccTなどと並んで、責任あるAIやAI trustworthinessをめぐる研究レビューの主要対象にもなっています。つまりAIESは、AIを単なる技術としてではなく、社会制度、文化、労働、法、民主主義、人間観の問題として考えるための、国際的な参照点のひとつなのです。

2026年のAIESは、スウェーデンのマルメで開催されます。会期は2026年10月12日から14日まで。第9回となる今回のAIESは、AI倫理がどこへ向かっているのかを知る上で、非常に重要な場になるはずです。私はAAAI/ACM Conference on AI, Ethics, and Society(AIES 2026)にて査読を担当しております。

AIESが扱うのは「AIの使い方」だけではない

この記事は無料で続きを読めます

続きは、2813文字あります。
  • 「公平なAI」は、本当に公平なのか
  • AIES 2026が示している新しい方向性
  • 芸術はAI倫理に何ができるのか
  • 「最前線」とは、最新技術のことだけではない
  • このレターでやっていきたいこと

すでに登録された方はこちら

読者限定
私たちはそもそも倫理的か。モラルマシーンから考える私たちの“危ない基準...
読者限定
「最後に人間が見ています」、という暴力
読者限定
生成AIで画像をつくると、なぜ、医者は男性で、看護師は女性ばかりになる...
読者限定
AIは人種差別を学ぶのか 「偏ったデータ」の先にある、分類の暴力
読者限定
データは、誰かが世界に引いた境界線である